水木しげると海外怪奇小説 PART 1
【独立作品編】
●「暑い日」(「死者の招き」 朝日ソノラマ サンコミックス 昭和42年7月19日初版)8pp
初出 「むし暑い日」漫画天国(芸文社) 66年(昭和41年)4月29日号
→ 「炎天」 (怪奇小説傑作集Ⅰ(世界大ロマン全集 24) 昭和32年(1957))
"August Heat" William Fryer Harvey (1885-1937)
原作の初出は、Midnight House and Other Tales (J.M. Dent, 1910)。
作者は、ヨークシャーに生まれ、オックスフォード大学卒業後、軍医として第一次世界大戦に従軍した。
水木の「暑い日」は、一読瞭然の翻案モノ。(2020.10.26 記)
GREAT GHOST STORIES OF THE WORLD:
THE HAUNTED
OMNIBUS (BLUE RIBBON BOOKS, 1941)
Edited by
ALEXANDER LAING
and
Illustrated by LYND WARD
●「安い家」(「忍法屁話」コダマプレス 昭和41年)31pp
初出 「黒のマガジン 3」東考社 昭和39年
●「怪木」(「水木しげる叢書 第三巻 黒のマガジン傑作集Ⅱ」青林堂 93年)14pp
初出 少年キング(少年画報社)昭和40年11月28日号
→「みどりの想い」ジョン・コリアー (「怪奇小説傑作集Ⅱ」(世界大ロマン全集 38)東京創元社 昭和33年)
"Green Thoughts" John Collier (1901-1980)
原作は、蘭に同化吸収される男の話だが、水木の「肉食木」のアイデアはここから来ているのだろう。
●「つぼ」(「つぼ」東考社 昭和41年)
→「猿の手」W・W・ジャコブズ (「怪奇小説傑作集Ⅰ」(世界大ロマン全集 24)東京創元社 昭和32年)
"The Monkey's Paw" William Wymark
Jacobs (1863-1943)
願いをかなえてくれる壺のアイデアは、3つの願いがかなう猿の手から。原作のジェイコブズの短編についてだが、今回、"The Supernatural Index" にあたったところ、戯曲版も存在するようだ。
「しかし『つぼ』に描かれている内容は、テニスン、ジェイコブスにヒントを取りながらも、やはり水木しげる独自の世界のものであり、その城域に、誰もが一歩も近づけない程の個性にあふれている。」桜井昌一「水木しげると壺」(東考社本の巻末エッセイ)
テニスンの作品については「イノック・アーデン」と思われるが、未読。
●「約束」(「黒のマガジン 1」東考社 昭和39年)30pp
●「約束」(「日本奇人伝」朝日ソノラマ 昭和46年)30pp
→「約束」A・ブラックウッド (「世界恐怖小説全集2 幽霊島」東京創元社 昭和33年)
"Keeping His Promise" Algernon Blackwood (1869-1951)
「日本奇人伝」収録版のタイトルページには、珍しく「約束/原作 A・ブラックウッド 訳 平井呈一 より」とのクレジットあり。他の「黒のマガジン」掲載作と同様、原作に忠実な翻案作品となっている。「日本奇人伝」収録されているヴァージョンは後半数ページを除き、新たに書き直している。最近気づいたのだが、これには「貸本漫画の原稿が存在しない」ことも大きな一つの理由だろう。貸本漫画の世界では、原稿を文字通りコマ切れにして読者にプレゼントすることが一般的に行われていた。
ブラックウッドの邦訳作品は以下の選集で読むことが出来る。しかし、残念ながら本作は、入手困難な「世界恐怖小説全集」のみに収録。
「世界恐怖小説全集2 幽霊島」平井呈一訳 東京創元社 昭和33年
「ブラックウッド傑作集」紀田順一郎訳 創土社 昭和47年
「ブラックウッド怪談集」中西秀男訳 講談社 講談社文庫 昭和53年
「ブラックウッド傑作選」紀田順一郎訳 東京創元社 創元推理文庫 昭和53年
「死を告げる白馬」樋口志津子訳 朝日ソノラマ ソノラマ文庫海外シリーズ28 昭和61年
●「不死鳥を飼う男」(「黒のマガジン 5」東考社 64年(昭和39年)84pp
●「鳥かご」(「日本奇人伝」朝日ソノラマ 昭和46年)21pp
初出 別冊少年キング 66年(昭和41年)1月1日号
→「住宅問題」ヘンリイ・カットナー (「怪奇小説傑作集Ⅱ」東京創元社 昭和33年)
"Housing Problem" Henry Kuttner
(1915-1958)
「ところで、この作品は、一つの記念碑的な性格を持つ。それは、水木しげる作品の重要キャラクターである“めがね出っ歯”の初登場作品だからだ。よく知られているように、モデルは東考社の桜井昌一その人である。」
(「水木しげるとリメイク作品」伊藤徹「水木しげる叢書 第三巻 黒のマガジン傑作集Ⅱ」青林堂 93年)
●「魔石」(「日本奇人伝」朝日ソノラマ 昭和46年)
初出 漫画天国(芸文社) 66年(昭和41年)6月10日号
→「猿の手」W・W・ジャコブズ (「怪奇小説傑作集Ⅰ」東京創元社 昭和32年)
"The Monkey's Paw" William Wymark
Jacobs (1863-1943)
「約束」と同様、タイトルページに「原作=W・W・ジャコブズ『猿の手』 訳=平井呈一 より」とある。
何度も繰り返し使用される「猿の手」は、水木のお気に入りのようだ。
●「猫又」(「別冊ハイスピード」三洋社 61年(昭和36年)38pp
●「猫又」(「猫又」朝日ソノラマ 昭和41年)
初出 少年キング 66年(昭和41)3月13日号
→「こびとの呪い」E・L・ホワイト(「世界恐怖小説全集7 こびとの呪」東京創元社 昭和34年)
「ポドロ島」L・P・ハートリイ(「怪奇小説傑作集Ⅱ」東京創元社 昭和33年)
"Lukundoo" Edward Lucas White (1866-1934) 初出「ウィアード・テールズ」1925年11月号
"Podolo" Leslie P. Hartley (1895-1972)
不気味な島のセッティングは「ポドロ島」から、人面疽は「こびとの呪」から。
●「となりの人」(「猫又」朝日ソノラマ 昭和41年)
初出 漫画天国(芸文社) 66年(昭和41年)4月1日号
→「オノレ・シュブラックの消滅」アポリネール(「世界恐怖小説全集9 列車〇八一」東京創元社 昭和35年)
“La Disparition d'Honoré Subrac “ (1910) Guillaume Apollinaire (1880-1918)
原作は、短編集「L'hérésiaque et Cie(異端教祖株式会社)」(1910)に収録。不倫相手の夫から命を狙われる男の話。
「彼は夏冬の差別なく、いつもただ一枚の僧服を羽織っているばかりで、また、足にはスリッパをはいていたにすぎなかった」
(青柳瑞穂訳)とあり、ねずみ男の身なりとほぼ一致しているのが可笑しい。
なお、「壁ぬけ男」(「怪談2」日の丸文庫 65年(昭和40年)51pp)も同じアイデアを借用したもの。(2021.5.11記)
桜井文庫49 (東考社 昭和61年)
■付録(兼、筆者の参考用)
世界恐怖小説全集(東京創元社)各巻目次リスト
第1巻 吸血鬼カーミラ 昭和33年(1958)
白い手の怪 レ・ファニュ
緑茶 レ・ファニュ
仇魔 レ・ファニュ
判事ハーボットル氏 レ・ファニュ
吸血鬼カーミラ レ・ファニュ
第2巻 幽霊島 昭和33年(1958)
幽霊島
人形 A・ブラックウッド
部屋の主 A・ブラックウッド
猫町 A・ブラックウッド
片袖 A・ブラックウッド
約束 A・ブラックウッド
迷いの谷 A・ブラックウッド
第3巻 怪奇クラブ
怪奇クラブ アーサー・マッケン
大いなる来復 アーサー・マッケン
第4巻 消えた心臓
五本指の怪物 W・F・ハーヴィー
コーネリアスという女 W・F・ハーヴィー
ひとりでに動く棺桶 L・P・ハートレー
豪州から来たお客 L・P・ハートレー
毒の殺虫瓶 L・P・ハートレー
消えた心臓 M・R・ジェイムズ
マグナス伯爵 M・R・ジェイムズ
第5巻 怪物
壁の中の鼠 H・P・ラヴクラフト
インスマウスの影 H・P・ラヴクラフト
ダンウィッチの怪 H・P・ラヴクラフト
怪物 A・ビアース
右足のなか指 A・ビアース
豹の眼 A・ビアース
第6巻 黒魔団
黒魔団 デニス・ホイートリ
第7巻 こびとの呪 昭和34年(1959)
ラパチーニの娘 ナサニエル・ホーソーン
邪魔をした幽霊 W・W・ジェーコブズ
信号手 チャールズ・ディケンズ
あとになって イーディス・ファートン
あれは何だったか? フィツジェイムズ・オブライアン
イムレイの帰還 R・キプリング
アダムとイヴ A・E・コッパード
夢の中の女 ウィルキー・コリンズ
人間嫌い J・D・ベレスフォード
チェリアピン S・ローマー
こびとの呪い E・L・ホワイト
第8巻 死者の誘い
死者の誘い W・デ・ラ・メア
第9巻 列車0八一
ギスモンド城の幽霊 シャルル・ノディエ
シャルル十一世の幻覚 プロスペル・メリメ
解剖学者ドン・ベサリウス ペトリュス・ボレル
草叢のダイアモンド グザヴィエ・フォルヌレ
罪の中の幸福 バルベエ・ドルヴィリ
フルートとハープ アルフォンス・カル
死女の恋 ゴーティエ
オンフォール ゴーティエ
手 モーパッサン
仮面の孔 ジャン・ロラン
フォントフレード館の秘密 レニエ
列車〇八一 シュオッブ
幽霊船 ファレール
オノレ・シュブラックの消滅 アポリネール
ミスタア虞 モーラン
第10巻 呪の家
真夜中の幻影 アルツィバーシェフ
呪の家 ベズィメーノフ
犠牲 レーミゾフ
妖女 ゴーゴリ
黒衣の僧 チェーホフ
まぼろし ツルゲーネフ
カリオストロ A・トルストイ
第11巻 蜘蛛
ロカルノの女乞食 クライスト
たてごと ケルナー
蜘蛛 エーベルス
みいら エーベルス
死んだユダヤ人 エーベルス
イグナーツ・デンナー ホフマン
世襲地 ホフマン
第12巻 死衣の花嫁 昭和34年(1959)
世界怪奇実話集
世界大ロマン全集(東京創元社)目次リスト
怪奇小説傑作集Ⅰ(世界大ロマン全集 24) 昭和32年(1957)
幽霊屋敷 ブルワー・リットン
エドマンド・オーム卿 ヘンリ・ゼイムス
ポインター氏の目録 M・R・ゼイムス
猿の手 W・W・ジャコブズ
パンの大神 アーサー・マッケン
いも虫 E・F・ベンスン
秘書奇譚 アルジャーノン・ブラックウッド
炎天 W・F・ハーヴィー
アウトサイダー H・P・ラヴクラフト
怪奇小説傑作集Ⅱ(世界大ロマン全集 38) 昭和33年(1958)
ポドロ島 L・P・ハートリイ
みどりの想い ジョン・コリアー
帰ってきたソフィ・メイスン E・M・デラフィールド
船を見ぬ島 L・E・スミス
泣きさけぶどくろ F・M・クロフォード
スレドニ・ヴァシュタール サキ
人狼 フレデリック・マリヤット
卵形の水晶球 H・G・ウェルズ
テーブルを前にした死骸 S・H・アダムズ
恋がたき ベン・ヘクト
住宅問題 ヘンリイ・カットナー
怪奇小説傑作集 1 (東京創元社) 昭和44年(1969)
幽霊屋敷 ブルワー・リットン
エドマンド・オーム卿 ヘンリー・ジェイムズ
ポインター氏の目録 M・R・ジェイムズ
猿の手 W・W・ジェイコブズ
パンの大神 アーサー・マッケン
いも虫 E・F・ベンスン
秘書奇譚 アルジャーノン・ブラックウッド
炎天 W・F・ハーヴィー
緑茶 J・S・レ・ファニュ
怪奇小説傑作集 2 (東京創元社) 昭和44年(1969)
ポドロ島 L・P・ハートリイ
みどりの想い ジョン・コリアー
帰ってきたソフィ・メイスン E・M・デラフィールド
船を見ぬ島 L・E・スミス
泣きさけぶどくろ F・M・クロフォード
スレドニ・ヴァシュタール サキ
人狼 フレデリック・マリヤット
テーブルを前にした死骸 S・H・アダムズ
恋がたき ベン・ヘクト
住宅問題 ヘンリイ・カットナー
卵形の水晶球 H・G・ウェルズ
人間嫌い J・D・ベレスフォード
チェリアピン S・ローマー
こびとの呪
怪奇小説傑作集 3 (東京創元社) 昭和44年(1969)
ラパチーニの娘 ナサニエル・ホーソーン
信号手 チャールズ・ディケンズ
あとになって イーディス・ファートン
あれは何だったか? フィッツジェイムズ・オブライアン
イムレイの帰還 R・キプリング
アダムとイヴ A・E・コッパード
夢の中の女 ウィルキー・コリンズ
ダンウィッチの怪 H・P・ラヴクラフト
怪物 A・ビアース
シートンのおばさん ウォルター・デ・ラ・メア
怪奇小説傑作集 4 (東京創元社) 昭和44年(1969)
ロドリグあるいは呪縛の塔 マルキ・ド・サド
ギスモンド城の幽霊 シャルル・ノディエ
シャルル十一世の幻覚 プロスペル・メリメ
緑色の怪物 ジェラール・ド・ネルヴァル
解剖学者ドン・ベサリウス ペトリュス・ボレル
草叢のダイアモンド グザヴィエ・フォルヌレ
死女の恋 テオフィル・ゴーティエ
罪の中の幸福 バルベー・ドルヴィリ
フルートとハープ アルフォンス・カル
勇み肌の男 エルネスト・エロ
恋愛の科学 シャルル・クロス
手 ギー・ド・モーパッサン
奇妙な死 アルフォンス・アレ
仮面の孔 ジャン・ロラン
フォントフレード館の秘密 アンリ・ド・レニエ
列車〇八一 マルセル・シュオッブ
幽霊船 クロード・ファレール
オノレ・シュブラックの消滅 ギヨーム・アポリネール
ミスタア虞 ポール・モーラン
自転車の怪 アンリ・トロワイヤ
最初の舞踏会 レオノラ・カリントン
怪奇小説傑作集 5 (東京創元社) 昭和44年(1969)
ドイツ編
ロカルノの女乞食 クライスト
たてごと ケルナー
蜘蛛 エーベルス
イグナーツ・デンナー ホフマン
ロシア編
深夜の幻影 アルツイバーシェフ
犠牲 レミゾフ
妖女(ヴィイ) ゴーゴリ
黒衣の僧 チェーホフ
カリオストロ アルクセイ・トルストイ